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キャバレー

朝から雪が舞っていた。
出勤途中のフロントガラス越しにその降る雪を見ながら、ふと遠い過日のことが思い出された。

何十年という遥か遠い過日、黒崎に存在したキャバレー。
そのキャバレーでボーイのバイトをしていた学生の私は、歳月流れた今でも、不思議と当時の女子の顔と源氏名を鮮明に覚えている。
その名はキャバレー・ヨーロッパ

『半村 良の世界』記:2004年10月09日

半村 良という作家をご存知の方も多いと思う。
私はこの作家の作品が好きである。
近年の文学の世界においては独自の特異な世界を構築した人。
その作品は伝奇SF、風俗小説、捕り物帳など幅広い。
「妖星伝」「戦国自衛隊」等もそうだ。

しかし私がもっとも好きなのは、人々の織りなす様々な人間模様を軽妙なタッチで描写した彼の経験が生きた作品。
特に男女の悲哀や下町の人情というものを書いては抜群。

この人、人生経験豊富でいろんな職をこなしてきている。
とりわけ酒場のバーテンやクラブの支配人時代の経験を素材にした下町人間模様を描いた作品にもっとも魅力を感じる。
なかでも第72回直木賞に選ばれた「雨やどり」が好きだ。

楽天ブックスレビューには・・
舞台は新宿裏通りのバー街・「ルヰ」のバーテンダー仙田を主人公に、彼の前を通り過ぎていく、いろいろな男と女の哀歌漂う人間模様を描き出す連作。・・とある。

連作とあるように、この手のものを幾つか書いている。
女帖・うわさ帖・八十八夜物語・男あそび・・
とても人間味があって温かくてなんともロマンチックな気分になる彼の作品群なのである。

その昔、学生の頃、キャバレーやクラブでのバイト時代を思い出す。

開店前のお店で皆押し黙って奥の客席に座っているホステスさん達。といっても当時は皆さん私より年上。閉店後、店の送迎ワゴン車でホステスさん達と帰っていったこと。車内に漂う表の華やかさとは違った裏のそれぞれの悲喜こもごも。

あの街この街、ステップにヒールが鳴り、一人降り二人降り、路地の街灯にぽっと浮かび上がり暗闇に消えていくドレス・・
和服が似合うきれいな憧れのホステスさんに弁当作ってもらって心躍ったこともあった。

たわいない日常に隠れた人情模様を、当時の私もまた初心な心で垣間見ていた。懐かしいな・・

・・残念にも数年前にこの作家は亡くなった。

相談Dr.Next